しのざきのおと。

2021年も穏やかに暮らしたい

絵描きさんから学ぶ言語化の重要性について

ここ最近「数年に一度出会えたらラッキーぐらいの面白さを感じる」「人におススメしたくなる」本に遭遇したので、今日はその話を。

広く色々な人に読んでほしいけれど、私は特に「後輩を指導する立場にある」「先輩から指導される立場にある」社会人(つまり全ての社会人)に読んでほしいな、と思った。なんでかと言うと、長い社会人生活の中で、きっとこの本が何かの助けになったりヒントをくれたりするだろうから。

 

中村佑介「みんなのイラスト教室」

中村佑介「みんなのイラスト教室」

 

漫画家の藤田和日郎さん、イラストレーターの中村佑介さん、どちらも「絵を描く人」が書いた(藤田さんの場合は口語をまとめた)本。

絵を描かない、または本当に趣味程度でしか絵を描かない人間は「絵って感性とか感覚とかそういうのを元に描かれてるんじゃないの?要はセンスでしょ?」みたいに思ってしまいがちだ。

けれども、お二人の話を読むと、その絵に行きつくまでの間に色々なことを考えて、そして「なんかいい絵、魅力のある絵」の「なんか」の部分を一生懸命言語化して、そこで手に入れた物を全力で作品に反映してくれるからこそお二人とも素晴らしい作品を生み出し続けてらっしゃるんだ、ということがすごくよくわかる。素晴らしい絵を描くのに言語化が必要って、逆説的なようだけど真理なようで、そこがすごく興味深いなと思った。

 

私は「人間や見た物・風景を言語化する」ことに興味がある。例えば、ある人を見て「なんか感じのいい人だな」と思ったらその「なんか」の部分を何とか言語化しようと自分の頭を頑張って回転させる。どうして私はこの人を「感じがいい」と思ったんだろう。見た目?だとしたらどこ?服装?髪形?体系?表情の作り方? 話?間の取り方?言葉の選び方?こちらとの間合いの取り方? 私の中にそれを「いい」と感じる傾向があるから?好きな知り合いに似てる? 等々…そういう事を考える上でも、この2つの本は非常に参考になった。

 

あと、お二人ともから人間に対する深い愛情を感じた。どうしてそう感じたかというと、「人を育てよう」という気持ちは、他人に対する愛情・興味から来るものだと思うからだ。

人を育てる、という行動は、乱暴に言えば「する必要がない」と考える人もいるだろう。仕事で言えば、即効で自分にとってメリットがある訳でも無いし、非常に手がかかる割に上手くいかない(自分が思ったような結果を得られない)ことも多いからだ。

育てる、しかも「的確に」育てるにはまず相手をよく見る事が必要だ。「育てる=注意する」だと思っている人がいるけど、注意するにしてもその相手にはどういう注意のしかたをするのが的確かを考えないといけないし、とにかくじっくり相手のことを観察して、その人に合った対応法をこちらが考える必要がある。それには時間も手間もかかるので、相手に愛情や興味がないとできないことだ。

 

それに育てる=注意する「だけ」では不十分になってしまう。「育てる=気づくこと、声をかけること、あなたの色々なことを気にかけているよと相手に伝わる形でサインを送ること」であり、「相手が自覚している良い所を、これからも継続した方がいいということを伝える」「相手が気づいていないその人の好い所に気づいて伝えてあげる」ことも同じぐらい重要だと思っている。

相手の欠点というのは人間は見つけやすいものらしいが、できている点や長所はこちらがそういう視点を持っていないと伝える事が出来ないし、最初はそういう部分を「難しい。見つけられない」となってしまいがち。だけど、相手を育てるために自分もそういう努力を積み重ねる必要があるんだろうなぁと思うし、そうすることで相手は「この人、自分のために色々な事を考えてくれてる、自分の事をよく見てくれている、自分のために時間を費やしてくれてるんだなぁ」と感じる部分もあり、より良く育っていくのではないかなぁ、と思った。

 

書いていて気が付いたのだが、他人に興味が薄い人だけでなく、自分の事ばかり考えている人や自分が周りからどう思われるのかを重視している人は人を育てようとする傾向が低いのも当然だなと思った。「相手」より「自分」に興味・愛情が向いていたら、他人を育てるのは難しいよなぁ。「その人が、その人自身の欲求を満たすために自分を怒っているのか、自分を成長させるために声をかけてくれているのか」って、案外敏感に感じ取れるものだから。

 

その点、藤田さん、中村さんのお2人は相手の持っている魅力も言語化して伝えるし、足りない・伸ばすべき部分についてはきちんと根拠を示した上で言葉をかけている。だから相手は受け入れる気持ちにもなるし、納得もできて、伸びる。こんな人が身近にいてくれたら嬉しいなと思う。

 

あと、読んでいて思ったのは教えてもらう側にも素直さが大事だな、ということ。言われた事に対して「まぁそうはいいますけどぉ、自分は●●って思うんですけどぉ~」みたいな下らん御託を並べずに、信じた人の助言は素直に取り入れてそれを活かそうという心が大切だなぁと。頑固は成長を阻むよなぁと。「ちはやふる」に「本当に高いプライドは人を地道にさせる」という私の好きな言葉があるんですけれど、上手くなりたいなら謙虚な心を持つことが大切だなぁ改めて思った。

 

そして「どうして?」「どういうこと?」という「?」の持つ力の威力を改めて感じた。たまたま大学の時にすごいなぁと思っていた先生も「自分の頭で考える」を連呼する先生だったのだけど、「?」はいつでもどこでも誰でも無料で使えて魔法みたいな力があるなぁと思った。

謎な事があった時に「?」を使うというのはもちろん、説明された事を自分で咀嚼して「こういうことで合ってます?か??」と言う時に使う「?」も重要だなぁ。自分が説明した時に、相手に相手の言葉で語ってもらうのも大切だよなぁ。割とわかりあえてないことって、よくあることだもんなぁ。

 

「育ててほしがり屋」はたくさんいるけど「育てたがり屋」は少ないなぁ、と前から、特に仕事をしていて思っていた。「育ててもらわなきゃいけないようじゃ社会人としてどうなの」という意見も、あまりにも受け身な後輩を目の前にしたら言いたくなってくる気持ちもわかる。

だけど、本当は自分が先輩になったら後輩を育てるのも仕事の一つだよな、とも前から思っていた。幸いなことに、私は人を育てるということに関心は強い方だと思うので、この本を参考にしながら、?を片手に頑張っていきたいなぁ。

 

 

本当はこの本についても書こうと思ったのだけど、別の話題として扱った方がよさそうなのでまた別の機会に。